第71章 笑顔
インターバルを経て、5分の延長戦。
その5分で決着が付かなければ、2分間のインターバルを挟んでまた5分延長。
延長戦に突入しても得点が動くことはなく、既に4回目の延長戦が終わろうとしていた。
NBAでも、延長記録は6回が最長だ。
既に現在、5分を4回……20分も延長している。
2Q分を再度行っているのと同じだけの負担が、選手たちにかかっている。
もう、コートに立っている選手で、それに耐えられるほど体力の残っている人間はいない。
だからといって、交代は試合の流れを切ってしまう。
勿論、それが目的でメンバーチェンジをする事も試合の中では少なくないが、今このタイミングで交代要員を送り込むのが良いとはとても言えない状況だった。
誠凛へのリベンジに向けて、黒子くん対策はどの学校よりも念入りに備えてきたつもりだ。
彼の切り札、ミスディレクション・オーバーフローは第4Qで使用されたものの、ゾーン状態の涼太相手では、期待したような効果は得られなかった。
また、笠松先輩が2年前に破った幻影のシュート(ファントムシュート)も、うちのメンバーにはもう通用しない。
唯一、読み切れないのは2年前のウィンターカップ洛山戦で見せた、仲間に対して使用できる擬似的な天帝の眼(エンペラーアイ)。
そして、まだ底を見せていない火神さんのプレー。
この2人の連携だ。
「カントク……次の5分、提案があるんスけど」
守りに入ったら、やられる。
海常は賭けに出た。
フォーメーションを、ゾーンプレスに。
流れを変えたり、点差を離す破壊力がある一方、突破されると非常に脆いフォーメーション。
ゾーンプレスに必要な力は、瞬発力・持久力・攻撃性・広い視野と予想能力……そして何より、チームワーク。
この時間、疲弊しきったこの状態からのゾーンプレスは、諸刃の剣だ。
全てをかなぐり捨てて、勝ちを奪いに行く。
エースであり、海常の主将、黄瀬涼太の決断だった。
永遠より長い、5分間が始まる。