第17章 噂 ー後編ー
昨日、笠松先輩から、合宿で黄瀬くんと同室にした方が良いのではないかと提案して頂いたのだけれども……。
IHの時、黄瀬くんが私の部屋に来たのが理由かと思ったけど、そうでもなさそうだし一体、どうしたんだろう?
何か不都合でもあったんだろうか?
でも、そんな話はこちらには来ていない。
メンバーは大部屋だから、黄瀬くんがそこから抜けて1人部屋になるのはコミュニケーションを取る上でも、よくないと思うんだけどな……?
だめ。集中できない。
黄瀬くんの噂を立て続けに聞いて、精神的に弱くなっているのか、深く考える事を、今はしたくない。
今は、やるべき事だけをやっていたい……。
「……っち…………みわっち!」
「は、はいっ!?」
突然のその声に驚いて振り向いた。
黄瀬くんに話しかけられてるのに、全く気付けてなかった。
今は練習の合間の休憩で、皆はそれぞれ座って水分補給をしている。
「オレのドリンク、知らねっスか?」
「えっ……ご、ごめんなさい! 作ったまま持ってきてなかったかも! すぐ持ってきます!」
急いで水道まで戻る。
あった。ボトル2本、持って行くのを忘れてしまっていた。
短い貴重な休憩時間なのに、水分補給が出来ないなんて……最悪のミスだ。
「申し訳ありません!」
「みわっち、そんなに気にしないで。ゴメンね。ありがと」
「気をつけます……!」
「みわっちも休憩して。ちょっと頑張りすぎっスよ」
黄瀬くんが、頭をポンポンと撫でてくれるのが、申し訳なくて。
「……ごめんなさい……」
違う。頑張ってるんじゃない。
勝手に動揺して、集中してなくて、ミスして……。
こんなにボロボロになるなんて思わなかった。
勉強では、例えどんな事があっても集中できたし、結果も残せた。
それなのに、恋愛のことになると、こんなにもみっともなくなるなんて。
「ちょっと、頭冷やしてきます……」
水飲み場まで走り、水道水をがぶがぶ飲んだ。何も考えずに。
皆のサポートする私がこんなでどうする!
しっかりして! しっかりするの!
無我夢中で水を飲んでいたら、変な所に入ってしまってむせた。
「げほっ! げほっ! ……もー……」
「……みわっち、どっか悪いんスか?」
背後から黄瀬くんの声がした。