第71章 笑顔
普段の生活と、全く異なる時間軸の中に存在しているような感覚に陥る。
10分って、なんて長いのだろう。
普段、駅で電車を待っている10分と同じ。
布団の中で読書をする10分と同じ。
その筈なのに、この10分は永遠のように感じてしまう。
ものの数秒でゴールに吸い込まれていくボールたち。
まだ試合終了までには、残り30分以上もあるというのに、最初から全員がエンジン全開だ。
それは、誠凛メンバーも同じ。
既に、クライマックスのような気迫に過熱する選手たちの意気。
会場のボルテージもMAXだった。
涼太には、黒子くんのミスディレクションは殆ど効力がない。
それなのに、思うように得点を重ねられないのはやはり、火神さんの存在が大きいからだろう。
大ぶりで豪快、悪く言えば少々雑なプレイだけれども、決めるところはしっかりと決めてくる。
終了のブザーが鳴り、第1Qは40対43の3点ビハインド。
引き続き第2Qは、92対90の僅か2点リードで終えた。
試合中のベンチに入れるマネージャーは1人のみ。
つまり、全てのケアを私1人で担当しなければならない。
僅かな休憩時間、涼太ばかりに気を取られているわけにもいかず、チームメイトとゆっくり言葉を交わすのもままならない。
でも、聞こえるようだった。
コート内でプレーする海常の皆を見てると、伝わってくる。
必ず勝って戻ってくるから、待ってて。
信じてる。
皆のこと。
皆の努力。
信じてるよ。
第3Q終了、
スコアは145対136。
涼太も火神さんも、ゾーンに入っている。
海常の9点リードで、
最終Qを迎える事となった。