第71章 笑顔
ウィンターカップ、決勝戦。
小雨がちらつく冬空の中、ファイナルのその名にふさわしく、年末だというのに会場は超満員。
応援席スタンドには、一般客から他校のメンバーまで、老若男女様々なバスケファンで埋め尽くされ、試合の行く末を見守ろうとしていた。
そんな中、遠目でも分かる、キセキの世代の面々。
それぞれ、チームメイトと共に観戦に来ているようだ。
テレビカメラや新聞社、雑誌社なども多数カメラを構えている。
コートでは、厳かな雰囲気の中、試合前のウォーミングアップが行われていた。
お互い、相手を頭の隅で意識しつつ、言葉を交わすことはなかった。
外気温の低さなどものともせず、体育館の中は熱気に満ちている。
今日の海常の選手たちの状態は、最高の一言に尽きる。
チームはこれ以上にないほどの仕上がり。
それに加えて、ベンチに入っているメンバーを含め、全員が集中出来ている。
「みわ」
「うん」
シュート練習を終えてベンチに戻って来た涼太の足元に跪き、テーピングを巻き直す。
これは、故障している部分を覆うものではなく、怪我防止の為に巻いているもの。
彼の動きをサポートするためのものだ。
「痛むところ、ない?」
「うん、バッチリ」
「……行ってらっしゃい」
テープを止めると、涼太の両手が私の両肩に添えられた。
「涼太、どうし……」
顔を上げると、涼太の顔が間近にあって……
何か柔らかいものが一瞬、唇に触れた。
へ。
それが彼からのキスだと気が付いたのは、観客席から割れんばかりの女性の悲鳴が聞こえたからだった。
「行ってきます!」
サラサラの黄色の髪を靡かせて、笑顔でコートへ戻っていく涼太の背を見送った。