第71章 笑顔
黒子っちの中にある燃える闘志は、静かに静かに、そしてとても熱い。
彼の持つ印象からは、想像がつかないかもしれないが……。
彼は、自分の闘志を外に出さぬよう、閉じ込める達人だった。
彼のバスケは、そんな達人技から成り立っているものだ。
そう言えば、一見熱い赤い炎よりも、青い炎の方が温度は高いんだな、なんて関係のない事を思いつつ……。
「……ボクは多分これが、人生最後の大会ですから」
黒子っちが、その色素の薄い瞳を儚げに伏せた。
「そっ、か……黒子っちは、大学では……」
「選手としてバスケを続ける予定は今はありません。趣味としては続けていくとは思いますが」
当たり前のように、こうやっていつまでも戦えるものだと思っていた。
でも、違う。
帝光中時代のオレたちがそれぞれ違う高校に進学していった時よりも、もっと大きな道の分岐。
それぞれオレたちは、違う道を歩んでいくんだ。
まだ形の見えない、未来に向かって。
「すみません、それにしても大会前の選手をこんなに寒い所に呼び出すべきじゃなかったですね。また、明日」
お互いに大会前の選手なのだが、こういう心遣いは黒子っちらしい。
「うん、楽しみにしてる。借りは返すっス」
「……みわさんの事も、諦めてはいないですから」
バスケの話をする時とは違う、"男"の目に切り替わったのがハッキリと分かった。
「渡さねぇっスよ」
「ボク、諦めが悪い方なんです。すみません。
それじゃ」
律儀にぺこりとお辞儀をして、黒子っちは去っていった。
なぜだかその背中から、暫く目が離せなかった。