第71章 笑顔
「……ボク達は負けませんよ」
彼特有の淡い微笑みは、夕陽の光を受けて更に神秘的な色を湛えている。
「またウチが追う立場……
今度こそ、オレたちが勝つっス」
その淡くも強く印象に残る輝きに負けぬよう、気迫を込めて返した。
「黄瀬君は、いつも輝いていますね」
「……へ?」
黒子っちがあまりに突然ヘンな事を言うので、少し前までのピリピリした緊張感を根こそぎ奪われてしまう。
また、黒子っちのペースだ。
「ボクは……少し、羨ましかったんです、キミが」
「オレが……っスか?」
黒子っちが?
オレを?
なんで?
「はい。キミのように真っ直ぐで、何も恐れずに向かっていける強さが、眩しいほどの輝きが、羨ましかった」
黒子っちが、オレのことをそんな風に思っていたって?
黒子っちこそ、いつも実直で、熱くて、人を変えてしまう魅力を持っている。
輝きっていうけど、黒子っちだって、輝いている。
控えめだけど、人を先導出来るほどの真っ直ぐな光。
"影"である彼は、同時に"光"でもあるんだと思う。
「オレの方こそ……黒子っちみたいに、って何度も思ったことあるっスよ」
黒子っちに妬いて、何度もみわにみっともない所を見せた。
それは、オレの中に黒子っちに対する劣等感があるからだ。
自覚はなかったけれど、そういうことなんだと、今更ながら思う。
「黄瀬君は、やはりボクにとって特別な存在でした。みわさんの事も、黄瀬君の恋人だから……と抑制していた部分があるのは否定出来ません」
……黒子っちが、こうして何かを覚悟したように言ってくるのは、何度目だろう。
オレにとっても、黒子っちは特別。
友人であり、昔のチームメイトであり、オレを変えてくれた人であり、ライバルだ。
「……この試合に勝ったらみわを寄越せ、とか言わないっスよね?」
「言いませんよ。奪う時は、ちゃんと正々堂々と正面から頂きますので」
軽く笑い飛ばしたように見えても、その眼差しの真剣さはそのままだ。
「……黒子っち、何の用でここまで呼んだんスか?」