第71章 笑顔
12月に入り、相変わらずクリスマスなんてロマンチックなものを堪能する余裕もないまま、ウィンターカップ開幕を迎えた。
冬の東京体育館は、熱気に包まれていた。
今、世界で一番熱いのはこの地ではないかと錯覚するほどに。
オレたち海常は、今日の準決勝で秀徳に辛勝し、決勝への駒を進めた。
明日は決勝戦。
決勝の相手は、
準決勝で桐皇学園を下した…………
「黄瀬君、ちょっといいですか?」
ロッカールームを出たところで、見慣れた水色の髪が視界に入る。
小柄で細身の体躯に、その外見とは裏腹な力強い意思の宿った瞳。
オレの……ライバル。
「黒子っち……」
「みわさん、少し黄瀬君をお借りしますね」
「あ、うん……」
オレの返答を待たずに歩き出した黒子っちに誘導されて、オレたちは体育館の外に出た。
「……いよいよ明日、決勝戦ですね」
そう、決勝戦の相手は、桐皇学園を下した
……誠凛だ。
2年前の準決勝の対戦カードの再来。
青峰っちとやる機会がなかったのは残念だけど、この対戦にはそれ以上の意味が有る。
「あの2人に勝つなんて……
今年の海常は、本当に強いですね」
"あの2人"というのは、秀徳の鉄壁コンビ、緑間っちと高尾クンの事だろう。
「はは、結構苦労したんスよ」
どちらに転んでもおかしくない試合だった。
それほど、実力は拮抗していた。
第3Qが終わるまで、取って取られてのシーソーゲームで、ずっと同点のまま試合が進んでいく。
異例の試合運びに、静まり返る会場内。
いや、会場内は歓声に溢れていたのかもしれないけれど、集中しているオレの耳に入らなかっただけか。
あの2人の完成されたコンビネーションは、そうやすやすと破れるものではない。
月バスや関東ローカル番組で取り上げられる事もあったほど、今や国内で有名な2人組。
試合は……勝利の女神が、ほんの少しだけこちらに微笑んだ……そんなギリギリの勝利だった。
でも、どんな勝利でも勝ちは勝ちだ。
今まで対戦してきた相手の分だけ、背中が重くなる。
彼らの分まで、オレたちが勝たなくては。