第71章 笑顔
涼太は、太陽すらも霞むほどの満面の笑みでこちらに向かってきた。
まるで光の屈折率まで操作してしまっているように、……キラキラ、キラキラ。
飛び散る汗まで絵になるって、この人は本当はどこの世界の人なんだろうと思う。
「黄瀬、シャラシャラウザいわ」
「あきサン、イキナリっスか!? 横暴!」
「黄瀬君、カッコ良いよ〜」
「おおキオサンも、サンキュ。
みわ、見てくれてたっスか!?」
「見てたよ。お疲れ様!」
……うう、私も格好良かったよ、って一言言いたいのに。
「午後はみわのバレー、ちゃんと応援に行くっスよ!」
……う。
今度は秋晴れのような清々しいその表情に、絶対にこないで下さいとは言えず、午後に行われた女子バレーボールでは、涼太の前で大変恥ずかしい姿を惜しみなく披露した。
「ぷっ……くく……」
帰り道。
涼太は、逞しくも柔らかい身体をくの字に曲げて、ひたすらにぷるぷる震わせている。
ひどい。
「りょ、涼太、まだ笑ってるの!?
意地悪!」
「だって……どうやったら、レシーブしたボールがアゴに……」
もう爆笑とかいうレベルじゃない。
軽く呼吸困難を起こしかけ、喘ぐように息をする涼太。
ほんっとに、楽しそう。
……女子バレー部の部員が3人もいる我がクラスは、ずるいけれど順当に勝ちあがり、決勝戦を迎えた。
決勝戦の相手は、バレー部のエーススパイカーがいるクラスだ。
……大体こうなってしまうものなんだって。
体育程度でしかバレーボールをした事がないメンツの中で、バレー部員は、言わばリーサルウェポンみたいなもの。
それを平気で覆す、涼太が特別なの!!
体育館には、既に出番のなくなった他のクラスの生徒や、応援席に座って応援してくれている涼太を見に来た女子の群れ。
「みわ! 頑張れー!」
涼太は、毎度毎度そんな声をかけてくれるもんだから、まるで針のむしろ。
周囲から感じる攻撃的な目線が肌に刺さる。
そして、更に私に集まるボール。
……嫌な予感しかしない。