第71章 笑顔
「常日頃から言ってるけどさ、あんたは自分にだけ厳しすぎるんだって」
あきが、飲み終わったジュースのパックを勢い良くベコベコと凹ませている。
私を見るその眼差しは、いつもの呆れモードだ。
「そんな事ないよ。普段から涼太には甘やかされまくりだし、私自身も自分にはかなり甘いんだって……」
そして、あきだってそう。
私の周りの人たちは皆、優しすぎるんだ。
私が厳しいなんていったら、世の中のもっともっと頑張っている人たちに怒られてしまうよ。
毎度毎度、自分の甘さに、自分でもガッカリするくらいなのに。
「とりあえず、あんなシャラシャラしてても、あんたの事だけは本気っぽいからさ、なんでも言っちゃいなって」
「う、ううー……ん」
そう言われても、はいそうですかと納得できないのが私の性分で……。
「よく考えてよ。黄瀬が良くてあんたがダメな理由がないじゃん」
「う、うう、ううー……ん?」
なんの根拠もなく、私と涼太がイコールになるっていうのも、それはそれでなんか違和感があるんだけどな……。
「本当にみわちゃんって……アンバランスって言うか……」
キオちゃんが、苦笑しながらジュースのパックを畳んで言った。
彼女は、まるでお母さんのような優しい慈愛の眼差しを向けてくれる事が多い。
……普段から余計な心配をかけてしまっているようである。
「う、よく言われるんだけど……」
だって、本当にそう思うんだ。
今更どうしようもないよ……。
もやもやした気持ちの中、そんな思いは邪魔だと切り裂かんばかりに、私たちの前方を華麗に走り抜ける涼太。
……彼はサッカー部員を差し置いて鮮やかにハットトリックを達成し、見事に我がクラスを優勝に導いた。
「……あいつ、ムカつくけどなんか天才だよね」
「あはは、ムカつくけどって……」
こんな言い方でもあきは涼太の事をちゃんと認めてるって、知ってる。