第71章 笑顔
バスケ部の1年生たちが来場者ノートに記名をして教室に入っていったところで、受付役を交代した。
「オレちょっと、脅かしてくるっスわ」
涼太は、一体どこから持ってきたのか、よくあるオバケ提灯と白い布を手に、彼らを後ろから追うつもりらしい。
「……ほどほどにね?」
私まで付いて行ってしまっては、受付係がいなくなってしまう。
「ハーイ」
子どものように目を輝かせて教室に入って行く大きな背中を見送った。
「うわぁぁぁぁ!!」
響き渡る男子生徒の悲鳴。
……どうやら涼太が活躍しているらしい。
あまりに悲鳴が聞こえるものだから、次に入ろうとしているお客さんが不安になっている。
「……これ、そんなに怖いんですか?」
「あ、いえ……ちょっと驚くところはありますが、お子さんでも入れるレベルですよ」
BGM代わりに聞こえる悲鳴。
全然説得力がない。
「とりあえず……入ってみようか……」
腰が引けたお客さんたちは、恐る恐る教室へ入って行った。
同時に背後の出口から次々出てくる1年生たち。
「びっ……ビビった〜!
マジこえぇ、なんだこのクオリティ」
思春期の男子高校生を、これだけ素直に驚かせるとは……涼太は一体何をしたのか。
「ハハ、大成功っスね!」
追って聞こえてくる底抜けに明るい笑い声。
「え……黄瀬先輩!?」
「なんだ、気付かなかったんスか?」
「確かに……あんな俊敏な動きをするオバケ、黄瀬先輩くらいしか出来ないですよね」
「ディフェンスの応用っス!」
……どんな動きだったんだろう。
すごーく気になる。
丁度受付が必要なお客さんもいなくなり、私も後ろを振り向いた。
「アレッ、神崎先輩まで!
さっき、いなかったですよね!?」
目を丸くして驚く1年生たち。
まさか私たちがいるとは思ってなかったんだね。
「丁度交代の時間だったんだ。
黄瀬くんのオバケ、怖かった?」
「メチャクチャ怖かったですよ!
薄暗い中にデカいシルエット、おまけに逃げても逃げても先回りされて……」
なるほど。
ディフェンスの応用って、そういうことね。
「じゃ、練習でフットワーク増やそうか」
私がにっこり笑ってそう告げると、涼太を含めた全員の口元が引き攣っていた。