第71章 笑顔
「じゃあ、黄瀬君、神崎さん、宜しくね!」
残暑厳しい中の開催となった、
海常祭当日。
オレたちに手渡された……オバケの着ぐるみ。
「やられた……」
オバケ役のバレー部2人がバックレた。
さっきトイレで見掛けたと思ったのに……。
「……みわと校内回る予定が……」
既に他のクラスメイトは皆、自由に校内を回っているだろう。
他にやる人間がいないのだから仕方ない。
後で焼きそばパン、奢って貰うっスよ……。
「わ、これ凄くしっかりしてるんだね」
みわは着ぐるみをまじまじと見て、なんだか嬉しそうだ。
オレたちに渡されたのは、2人一緒で入る……デカい着ぐるみ。
顔がとにかくリアルで気持ち悪い。
幽霊とかオバケっていうよりも、まるで某ゾンビアクションゲームに出てくるゾンビだ。
「子ども……泣くよね? これ」
みわが飛び出した目玉をツンツンしながらそう言った。
「確かに……あの暗い中でこれ出てきたらトラウマっスわ」
もっと、オバケ提灯がペロッと出るとか、そういう可愛らしいのはないのか。
「ちょっと、入ってみる?」
みわは、子どもを脅かす存在になる事に微かな罪悪感を感じつつも、着ぐるみへのワクワクが抑えられないらしい。
可愛すぎる。
緞帳の様な厚めの布をくぐって中に入ると、思ったよりも中は窮屈ではなさそうだ。
服飾科への進学を希望している子が作っただけあって、質がいい。
しかし……
2メートル近いバレー部の2人用に作ってあるから、とにかくデカい。縦に長い。
「みわ、これ引きずるっスよね?」
20㎝ちょいの身長差のせいで、きっと外から見たら顔の部分が半分ぐちゃりと崩れて、余計に気持ち悪いオバケになっているであろう。
「踏み台とか置こうか? 動き回れなくなっちゃうけど……」
こうして、まったく動き回りはしないけど、とにかくデカくて気持ち悪いオバケが出来上がった。