第70章 特別
打ち上げが終わると、空は驚くほど静かになった。
微かに届くのは、人々の喧騒だけだ。
それすらも、距離があるここに届くのは、潮騒と間違えそうになるほどに小さいもので。
2人の会話を遮るものはなくなった。
息を止めて魅入っていた私は、はぁ、と大きく息をつく。
目の中に残像が残っているような感覚。
「こんな所で花火独り占め……贅沢だあ」
「喜んで貰えたなら、良かった」
「ありがとう、涼太」
もう、いつもの空だ。
遮るものがない分、星が多く見える。
「……アメリカでさあ、見たんスよ、空」
真横から聞こえる声は、いつもよりも少し、甘め。
「うん」
「あー、この空はみわんトコに繋がってるんだなって思ってさ……凄くない?」
「……うん?」
「前にもプラネタリウム見た時に、少し話したっスけど……まあ、時差があるから全く同じ景色を同時にってのは無理だけど……
どこに居たって、この地球上にいれば、繋がってんだなあ……って、しみじみ感じたんス」
「そうだね……」
「ま、それでも逢いたくて逢いたくて発狂しそうになったんスけどね」
「うん……」
逢いたかった。
でも……今は、すぐ隣にいる。
目が合うと、どちらからともなく唇を重ねた。
「ん……」
目の前には興奮した切れ長の瞳と、ふるりと震える長い睫毛。
この1週間逢えずに、身体もこころも渇いていたのは私も同じ。
空港でのキスは、結果的に満たされない身体を余計に煽るものになってしまった。
少しでもその渇きを癒したくて、貪るように唇を吸い合った。
「……みわ」
切なげに届く掠れた声が、涼太の余裕のなさを物語っている。
もう理性は、ほんのカケラほどしか残っていない。
獰猛な獣のように襲ってくるその唇に、声を上げないようにするのが精一杯。
与えられる快感に、私は腰を揺らして応じてしまっていた。