第70章 笑顔
昨日はあきとあんな風に話したけれど、実は、涼太の進路はまだ、怖くて聞けていない。
でももう、そんな事も言っていられない。
「お待たせ、みわ」
「涼太、お疲れさま」
入ったのは、駅前の洋食屋。
お店の中は広くて静かで、ゆっくり話が出来る。
2人で何度も来た事のあるお店だ。
席に着いてハンバーグ定食を頼むと、涼太は「それ、好きっスね」と言って切れ長の瞳を柔らかく細めた。
私が注文したハンバーグ定食と、涼太が注文したナポリタン定食のプレートが席に運ばれてくる。
食欲を刺激する香りがテーブルに充満して、お腹がくるると鳴った。
「……涼太、先に話しておくね。私、受けたい大学決めたんだ……」
大学名を告げると、涼太は少し目を見開いて、フォークを止めた。
「……ちょっと……遠いんス、ね」
「そうなの……」
そう、私の行きたい大学は、都内とはいえ、都心からは程遠い。
これから通う事になるであろう、マクセさんの所との距離や学校の質を考えると、その大学が一番都合がいい。
「りょ、涼太……は、決めてるの? 進路」
「うん、決めたっスよ」
「そ、そっか」
「オレ、笠松センパイの大学に行く事にした」
「え……」
「オレね、やっぱり、オレを変えてくれたあのひとのチームで、"優勝"したいんスよ。あの時の借り……返せてないから」
涼太にとって、笠松先輩は特別だ。
腐っていた彼を叩き直し、正しい方向へ導いてくれたひと。
「……くだらないって、思った?」
「ううん、思ってない。思うはず、ないよ」
「海常高校の勝利とは、別にさ……あのひとと勝ちたいんだ……」
そう言った涼太の瞳は、いつもの様に澄んでいて。
私が大好きな、真っ直ぐに自分のやりたいことへ向かっていく姿だった。
……アメリカ行きを告げられなくて安堵した自分がいたのは、秘密。