第70章 特別
ドン……。
ドドン……。
その音が響くたびに、内臓が揺らされるような振動が下腹部から伝わってくる。
大音量の太鼓を聞いているみたい。
目の前に広がる光景は、なんて幻想的でロマンチックなんだろう。
大小、色とりどりの花たちが次々と咲いては散っていく。
その色が、真っ黒の海に映って、消えて。
これが……
「すごい……花火だあ……」
「……目の前を遮るものがないし、
ここなら見やすいかなって、思いついて。
思いっきり、職権濫用っスけどね」
そう言って笑う涼太の髪に、顔に、花の色が映って、まるで彼が七色に光ってるみたいだ。
……綺麗……。
「……ん? みわ? 見ないの? 花火」
口もとに笑みを湛えたその表情は、いつもの彼。
「見るよ、見る」
また、つい見とれてしまった。
邪な気持ちを振り払うように、小走りで端のフェンスに掴まる。
海沿いの道に、人がひしめき合っているのが見えた。
それすらも、景色のひとつに見えて不思議。
そこにいる人たちは、大変だろうけど……。
次にドドンと上がった花火は、どうやらキャラクターを模したもののようで、そういった類のものに詳しくない私でも、どこか見覚えのあるものだった。
「あ!」
手に持っている、笠松先輩に買って貰ったわたあめの袋を見る。
ふっくらした顔にまんまるほっぺた。
ネズミのような体躯が愛らしい、このキャラだ。
「あ、今の花火、ソイツっスね」
「うん、先輩とね、涼太に似てるって話してたんだ」
「ええ、オレ? 黄色いから?」
「分からないけど、なんとなく似てない?」
「そーっスかね……」
「ふふ、可愛い」
愛嬌のあるその顔をつるりと撫でた。
「……みわ、オレだけ見てよ」
「……ん?」
「オレ以外に触らせないでよ」
え?
涼太との距離が突然縮まって、右の耳朶に鈍痛が走った。
目の中でパチッと火花が散ったような、衝撃。