第70章 特別
「涼太」
「……みわがいないから、探しに来たんスよ」
静かな声。
いつもは頼もしく感じる大きな身体から、凄い威圧感が漂っている。
何か、怒ってる……?
「おう黄瀬、ファンの相手は終わったんかよ」
「ええ、まあ」
笠松先輩にも冷たい態度。
先輩は気を遣って良くしてくれたんだから、そういう態度はやめて欲しいんだけど……。
「あの、これ……買って頂いちゃって」
手に持っていたわたあめの袋とたこ焼きを見せると、空いている右手でたこ焼きを持ってくれた。
「スンマセン、ありがとうございます。
じゃ、今日はもう失礼します。行こう、みわ」
「笠松先輩、ありがとうございました!」
「おー、またな」
笠松先輩は、やれやれと言った表情。
「あっ」
涼太にグイッと手を引かれ、足がもつれる。
「ま、待ってよ、涼太!」
涼太は私の手を引き、どんどん歩いて行く。
女の子に声を掛けられても見向きもしない。
そうこうしているうちに夜店がある階段を抜け、参道を抜け……神社の裏手にある公園に出た。
他にも何人もの人がいて、待ち合わせ場所やお喋りをする場所として利用されているみたい。
電灯は少なく、ここからでは顔までは認識できないようで。
涼太は私をベンチに座らせて、自分は私の前にしゃがんで、目線を合わせてきた。
な、なんでこんなに怒ってるんだろう。
真っ直ぐ見つめられる瞳に縛られて、返事を返す事が出来ない。
「みわ……何してたんスか?」
「え?」
「センパイに頭撫でられて……何してたんスか?」
頭? ああ……
「なんかおっきい虫が頭に止まってね、取って貰ってたの」
「虫……?」
「センパイも、私の事は女としてそんな意識しないって言ってたし、別に変な意味はないよ」
「女として意識してないわけないじゃないスか……確かに、付き合いが長くなって高校入学当初とは違うけど……」
涼太の手が、前髪に触れる。
くるくると指に絡めるように回して、するりと指だけを抜く。
次はもみあげ部分から少し垂らしている髪に触れる。
同じように弄る。
……な、なに……?
涼太は無言だ。
やっぱり、何か怒らせてしまったみたい。
久しぶりに会えたのに、
こんな空気、やだよ……。