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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第70章 特別


頭皮にチクリという感覚。

え……

「あ、髪の中に」

先輩のその発言で、私の脳みそは恐慌状態に陥った。

「きゃあああああやだ、やだ!!」

先輩の手を振り払うようにして頭をぶんぶん振る。
取れた!? 取れた!?

「おい、そんなに振るともっと中に入るぞ」

「先輩! ほんとに! お願いします!」

もはや半泣きだ。
だって、本当に無理なんだもん、本当に!

「お、いた。なんかしがみついてんな……」

「分からないのも怖いけど実況もイヤです!」

「だって取れねーんだよ……お、お」

「先輩! 先輩!!!」

「お、取れた」

先輩が指でつまんだ虫のような物体を覗き込んでいる。

とても直視は出来ないけど、とにかくビッグサイズという事だけはよく分かった。

「なんだ、この虫」

「お願いします! もう野に放って下さい!」

「……ぶっ」

先輩は大笑いしながら、虫を草むらへ逃がした。

「おもしれーな、神崎。
そんなに嫌なのかよ?」

「イヤですよ! 怖いじゃないですか!!」

先輩の手が再び髪に触れる。
撫でるように、梳かすように。

「え、まだ何かいますか?」

「いや、頭くっしゃくしゃになったからよ」

「す、スミマセン……」

「神崎なら別に女としてそれほど意識せずに済むのにな……」

思えば、笠松先輩が私と接する時に顔を赤くしたりするのをあんまり見た事がない。

「ふふ、色気がないからじゃないですか?」

「いや、そんなことねーよ」

「先輩、ありがとうございました」

優しく髪を直してくれる先輩にお礼を言って、手を離してもらった。

髪を直してくれただけなのに、やっぱり涼太以外に触れられるのが、少しだけ嫌で……。

もう私、本当になんなんだろ……。



「じゃ、戻るか」

「ハイ」

よいしょ、と石段から重い腰を上げると、後ろに居た人にドンとぶつかってしまった。

「あ、すみませ……」

振り向いた私の瞳に飛び込んで来たのは……

蜻蛉柄の藍色の浴衣。



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