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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第70章 特別


「あ、先輩、ここですよ」

私たちは、あんず飴の屋台の前で足を止めた。

「おう、サンキュー」

先輩がお金を払っている間、後ろを振り返っても涼太の姿はない。

当たり前だ。何も言わずに来たのは私なんだから。

私がいないのに気が付いて欲しいなんて、子どもじゃないんだから……。

脳裏を掠めたくだらないワガママに、
思わずはあ……と大きなため息をついた。

「神崎、どうした?」

あんず飴を手にした笠松先輩は、私の異変になんとなく気が付いていたようで……。

「あ、いえ……」

「ほれ、これ食えよ」

もう片方の手に持っていたのは、わたあめが入った袋だった。

ビニール袋には、子どもを中心に人気のゲームのモンスターが描かれている。

黄色いネズミのような丸々とした体躯が可愛い。

……先輩にも気を遣わせてしまっている事に気がついた。

「……ありがとうございます。
いいんですか?」

「ああ、いいぜ。こいつ、黄瀬みたいだよな」

「え……」

黄色い体につぶらな瞳。
誰からも愛されるその姿は、確かに涼太みたいで。

「なんかほら、生意気そうでよ」

「……ふふ、そうですね」

思わずクスリと笑みが零れてしまう。

「黄瀬となんかあったのか?」

「いえ……なんでもないんです。
先輩、ありがとうございます」


劣等感……。

そうだ、嫉妬と一緒に抱いているこの気持ちは、劣等感。

劣等感を抱くっていうことは、こころの中では、あの女の子たちより優位に立ちたいと思っているということ。

嫌になるくらい、傲慢だ。

嫌な思いを抱いて尻尾を巻いて逃げ出すくらいなら、誰からも文句を言われないほど素晴らしい人間になればいい。

それが出来ない癖に、自分に自信が持てない癖に、彼に近づく女の子たちをこんな目で見るなんて、なんて性格が悪いの。

彼と付き合っていて、彼に抱かれているからって、自分が特別な人間になったと勘違いしているんじゃないの。

「……神崎、あれ食うか?」

「……はい?」

先輩が指差した先には、たこ焼き屋があった。







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