第70章 特別
「黄瀬? 神崎?」
私たちがモナカに挟まれた水飴付きの甘酸っぱいあんず飴を頬張っていると、後ろから聞き覚えのある声が響いた。
「笠松センパイ! 何してんスか、こんなトコで」
振り向くと、甚平姿の笠松先輩が。
屋外での練習もあるのか、肌は健康的に焼けている。
「いや、ちょっと誘われてよ……」
「ヤッホー! 黄瀬君、神崎さん久しぶりだね!」
笠松先輩の後ろから現れたのは……チカゲさんを含んだ大学生たちだった。
学校でのコンテストで選ばれるほどの美人。
涼太の隣に並ぶと、驚くほど絵になる。
……正直、歳が近いからか、モデルのさりあさんと並んだ時よりも、お似合いに見える。
血色の良い頬、艶のある唇や髪。
華やかな浴衣は、彼女の魅力をより一層引き立てているようで。
すれ違う人たちの声が聞こえる。
「あっ、黄瀬君だ!」
「やめなよ、あれ多分彼女だよ」
「うっそ、歳上? スッゴイ美人!」
「あれは勝てないね〜」
「えー、あたし写真お願いしてくる!」
……なんだろう。
あの人たちは、チカゲさんの事を褒めているだけなのに、何故か比べられている気がして……私はダメだと言われている気がして、悲しくなってしまう。
「黄瀬君、写真いいですか?」
「……あー、いいっスよ……」
私はダメだって、言われてる気がして……。
こんな筈じゃ、なかったのに。
そう思いながら、また私は離れた所から涼太を眺めている。
口に含んだあんず飴は、さっきよりも酸っぱく感じた。
「神崎、ソレ何食ってんだ?美味そうだな」
「あ、これはあんず飴です。ここをもう少し下りた所にある……」
「悪ぃけど、ちょっと買ってくるからあいつらに言っておいて」
笠松先輩はそういうと、階段を下り始めてしまう。
背後には、涼太とチカゲさんがカップルだと思っている人たちが2人を囃し立てる声。
嫌だ。
ここにひとりで居たくない……。
「せ、先輩! 私も、行きます!」
決して後ろは振り向かず、笠松先輩について行った。