第70章 特別
「黄瀬さんは大きいねえ」
おばあちゃんは目もとや口もとを緩めながら涼太に浴衣を着付けていく。
「お仕事でモデルさんもしているなら、黄瀬さんは自分でも浴衣、着れるのかい?」
「あ、一応教えて貰った事があるっス。
1人じゃこんなキレイに着れないっスけど」
うっ……。
わ、私も浴衣くらい自分で着れるようにしないと……。
「黄瀬さんくらい上背があると、柄が良く映えるねえ」
涼太の浴衣は、藍色のトンボ柄。
長身の涼太には、おばあちゃんが言う通り大きな柄はとても良く映える。
髪色と相まって、渋めの藍色がとても洗練されたものに見えて。
流石、モデル……カタログの1ページを見てるみたいだ。
「蜻蛉はね、"勝虫"っていって、縁起がいいんだよ。"目標に向かって前進する"って意味があるの」
「へえ、そうなんスか……」
私も、柄に意味があるのなんて知らなかった。
「さ、出来上がり。次はみわ、おいで。
黄瀬さんは後ろを向いてて頂戴ね」
「はぁい。おばあちゃん、私のは? それ……蝶々、だよね?」
私の浴衣は、紫色で蝶柄だ。
凄く繊細な線で、一見蝶とはわからないような柄。
「素敵……」
「蝶々はね、さなぎから蝶に羽化するでしょう? だから、"変化"って意味があるの」
「変化……」
「後はね、蝶々は生涯同じ相手と過ごす生き物だからね、"夫婦円満"や"恋愛が長く続く"という意味もあるんだよ」
「いい意味っスね」
「黄瀬さん、よろしくね」
「了解っス」
う、また。
2人のこのノリがどうにも苦手。
なんて反応すればいいのか分かんなくて……。
「……ありがと、おばあちゃん」
なんだか恥ずかしくて、そう小さく言うだけで精一杯だった。
「さ、出来たよ。2人で楽しく行ってらっしゃい」
「ありがとう! 行ってきます!」
自分の幸せを願ってくれる人がいるって、なんて嬉しいことなんだろう。