第70章 特別
そこから暫く、涼太のアメリカでの話を聞いていた。
こんな練習をしたとか、こんな人とプレーした、とか……。
宿も、参加者全員が同じ建物内に居たらしく、深夜まで盛り上がっていたみたい。
流石の涼太は、たった1週間の滞在でも友人と呼べる人たちを作ってきたそうで、練習時間以外の交流も満喫したようだった。
「ま、言葉は分かんなくっても、なんとかなるモンっスね」
という彼らしい一言で片付けていたけれど、そこに居たのが私なら、とても同じようにはいかなかっただろうな。
国境も人種も全てを超越して人々を魅了する人間なんだ、黄瀬涼太というひとは。
世界に通用する、ひと。
「みわ、そろそろお祭り、行く?」
「あ、うん、そうだね」
涼太は、手にしていたかりんとうを口に放り込んで立ち上がった。
「ご馳走さまでした」
空いた湯呑みをお盆に乗せ、台所へ下げてくれる。
「涼太、ちょっといい? おばあちゃんが何か用意してくれてるみたいなんだけど……」
涼太を連れておばあちゃんの部屋に入ると、鴨居に2つ、和装ハンガーがかけられていた。
そのハンガーにかかっている布は……
「え、これ、浴衣っスか?」
「……うん、そう、みたい」
そう、浴衣だった。
でも、私は浴衣を持っていないし、勿論買った記憶もない。
「どうしたんだろ……これ……」
おばあちゃんが腰のエプロンで手を拭きながら部屋に入ってきた。
「さて、どっちから着る?」
「おばあちゃん、これどうしたの……?」
安いものには見えない。
さらりとした、なんだか上質な肌触り。
「いいでしょ? ばあちゃん、衝動買いしちゃった」
「いいでしょ、って……」
「オレのまで……スミマセン。ありがとうございます」
「ふふ、じゃあ黄瀬さんから始めようかね」
おばあちゃんは、とても嬉しそうに腕を回した。