第70章 特別
「遠くまですみません……。
ありがとうございました!」
「みわちゃん、またね〜!」
「さつきちゃんも、青峰さんもありがとう!」
横浜駅までと言っていたのに、ここまで来たら大して変わらないと言って、結局家まで送って貰ってしまった。
涼太と一緒に挨拶を済ませて、去っていく車を見送った。
「おばあちゃん、ただいま!」
居間に顔を出すと、おばあちゃんはテレビを見ていた。
「あらお帰り、早かったわね」
「さつきちゃんのお父さんが、車で送って来てくれたんだあ」
「それは良かったね。今お茶淹れるわ」
そう言って、おばあちゃんはゆっくりと立ち上がった。
おばあちゃんは木吉さんのリハビリセンターでのリハビリを経て、本当に杖なしでも生活が出来るようになれたのだ。
担当してくれた人は、本人が精力的に頑張ったのが一番大きいですよ、と言っていたけれど、スタッフの方々の協力だって大きいだろう。
お金はやっぱりかかったみたいだけど……良かった。
おじいちゃんだって、喜んでいるはず。
「涼太、座ってて。お茶淹れてくるから」
「……うん」
やっと手が離れたけれど、彼の視線は熱を持ったまま弧を描いて私を追ってくるようだ。
ああ、落ち着かない。
台所に入ると、おばあちゃんが使い慣れた急須から湯呑みにお茶を注いでいるところだった。
「みわ、もうお祭りまでそんなに時間はないけれど、すぐに準備するかい?」
「ん? 準備?」
お祭りに行くのに何か準備が必要なんだろうか?
「ばあちゃんの部屋に出しておいたからね」
「へ?」
「後で黄瀬さんと行っておいで」
おばあちゃんはニコニコしながら、お盆へお茶とお茶菓子を乗せている。
「あ、おばあちゃん、私持って行くよ」
「あら、ありがとう」
準備って、なんだろ?