第70章 特別
その……目は……
その……表情は。
私の中に入りたいと誘惑する時の……
私の中に、入っている時の……顔。
なんで、そんな顔をしているの、涼太?
まるで密室に2人きりでいる時のような。
熱を持った瞳に、魂を抜かれそう。
更にいやらしく動く彼の指に、どうしようもなく身体の中心が……ナカが、疼く。
触れているのは手なのに。
それなのに、裸で抱き合っている時のような、全身を愛撫されているようなその動きに、喘ぎ声が漏れそうになる。
涼太……なに、なに、どうしたの……?
やめて……
も、これ以上触れないで……
おかしくなっちゃうよ……
「黄瀬、なんか頭ボーッとしねえ?」
「!!」
青峰さんのよく響く声に驚き、大袈裟なくらいに肩をビクリと上下させてしまった。
「あー……時差ボケじゃないっスか?
オレも、変な感じ」
変な感じって……これは、こんなことしてるのは時差ボケのせいじゃないよね!?
爪や、水かきの部分をすりすりと擦られるだけで、ゾクゾクと背筋を甘い快感が走っていく。
ずっと国内にいた私の頭の中が、一番ボーッとしているんじゃないか。
逢いたかった……
涼太の声が聞こえて来そうな愛撫。
うん、これはもう、愛撫だよ……
私だって、逢いたかった。
寂しかった。
触れたかった。
声を聞きたかった。
絡んでいる涼太の左手と私の右手。
彼の小指を、私の小指の腹で
すり、と擦った。
私だって、あなたが、欲しい。
涼太の手がピクリと反応した。
「おー、待たせたな。
たい焼き売ってたから買って来たぞ」
さつきちゃんのお父さんが、何やらガサガサといくつかビニール袋を持って戻ってきた。
「わあ! おじさんありがとう!」
「っす、いただきます」
前のふたりがそう返事すると、たい焼きが入っているらしい袋が後ろまで回ってくる。
「あ、ありがとうございます…いただきます!」
それからたい焼きを食べている間もずっと……結局、神奈川に帰り着くまでその手は握り締められたままだった。