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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第70章 特別


桃井家の車は空港を出発し、窓を取り囲む無機質な背景が動き始める。

車内は冷房が効いていて快適なのに、右手だけがジンジンと熱くて、心臓に過負荷がかかっているかのように胸が痛い。

視線を落とすと、涼太の大きな手が私の手に重なっている。

涼太の長い指が手の甲の筋を撫でたり私の短い指に絡まれるのが、なんだか愛撫されているみたいで……感じて、しまう。

こんなとこで、ダメ……

そう思って手を振り払おうと動かしても、すぐにその手に絡め取られてしまって。

手を触られている筈なのに身体の中から湧き上がるざわめき。

顔に出ないようにするので精一杯だ。

「みわちゃん達、今日はこの後どうするの?」

「あッ、今日は夏祭りに行こうかって、言ってるんだ!」

そんなに距離がないさつきちゃんに答えるのに、無駄に大きな声になってしまった。

「そうなんだ、いいね!」

「……ウチの近所でも今夜、祭りあんぞ」

青峰さんがボソッと会話に混じってきた。

「え? ホント? どこで?」

「ほら、小学校の裏の……」

「うそ、行きたい行きたい!
大ちゃん、お祭りなんて興味なさそうなのに、よく知ってるね!」

「オマエが行きたいって言うからだろ」

「……」

車内がなんとも言えない空気になる。
男性陣の猛攻に、私たちは全く対応出来なかった。



「おっと、ガソリン入れるからパーキング寄らせてくれ」

さつきちゃんのお父さんの声が、静寂を破る。

私たちの微妙な空気を知ってか知らずか、車はパーキングエリアへと入って行った。

しかし、そのままガソリンスタンドには入らずに、車は駐車場に停車した。

「あれ? お父さん?」

「母さんに頼まれたものがあったんだ。買いに行くから、ちょっと待っててくれ。お前たちも行くか?」

「ううん、お留守番してるよ。
みわちゃん達、買い物ある?」

「ううん、特にないよ」

「じゃあ、私たち待ってるね。
お父さん、行ってきていいよ」

さつきちゃんのお父さんが車を降りて、車内は更に静まり返る。

手はまだほどかれない。

「ね、ねえ、涼太……」

そう小さな声で彼に話しかけると、
涼太と目が合った。

え、その目は……。




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