第70章 特別
コーヒーは自販機で……と一瞬思ったけど、折角迎えに来てくれるんだ、コーヒーショップで買っていくことにした。
「別にそんなに気にすることねーのに」
「青峰っちは馴染みだからいいけど、オレは初対面っスからね……」
幸いにも店内はそれほど混雑しておらず、オレの前に数人の客がいるだけだった。
会計を済ませ、商品受け取りテーブルの前でコーヒーを待ってる間に、みわに帰国した旨のメッセージを送る。
すぐ既読には……ならないっスよね。
まだ寝てんのかな。
……我ながら女々しい。
「お待たせ致しました、本日のコーヒーをご注文のお客様」
「ども。はい、青峰っち」
「オレが持つのかよ……」
「向こうだって青峰っちから受け取った方が気楽っしょ」
渋々コーヒーを持つ青峰っちと、ターミナル出入口へ向かう。
駐車場ではなく、一時乗降が出来る場所で待ってくれているらしい。
しかし空港というのは、いつでも人が溢れかえってるな……。
日本へ来た人。
日本へ帰って来た人。
日本を出て行く人。
それぞれの人間に、それぞれのドラマがある。
それぞれ、待ってくれている人がいる。
少し感傷的になりながらも視線を泳がせた先
隣をすれ違う外国人よりずっと華奢で小柄で
隣の桃色の髪よりずっと目立たない筈の黒髪
Tシャツにジーンズと シンプルな佇まい
それなのに
視線が自然に吸い寄せられて離せない
「……みわ?」
なんで、みわが?
そこには、いつもの微笑みがあった。
「おかえりなさい、涼太」
気付けば周りの景色が物凄いスピードで流れている。
オレは、荷物も全て放り出して駆け寄っていた。
「あの、さつきちゃんがね……」
そこまで言った彼女の唇を、勢い良く奪った。
「んっ、りょっ……」
焦りすぎて、前歯がぶつかった。
そんなの、御構いなしだった。
みわ。
戸惑うように胸の前で組まれていた手がほどけ、身体同士が密着する。
深くなっていく口付けに応じるように、その細い腕がオレの腰に回された。