第70章 特別
"滅多にないチャンスなんだから、
私に連絡なんかしなくていいから!
むしろしないで! しちゃダメ!
現地での事に集中して!"
出国前にそう言われ、アメリカ滞在中は一切みわに連絡を取らなかった。
「だからソレ、浮気だって」
「青峰っち、ウルサイ」
「どーすんだよ、家に帰ったらベッドに他の男と……って」
「なんスかそれ、昼ドラの見過ぎっしょ!
みわはそういうトコはクールなんスよ、だからオレに逢いたいとは言わないの!」
本当は……寂しい。
いつも、もっと頻繁に連絡が欲しい。
理性なんて優先しなくていい。
オトナの対応なんかしないで欲しい。
無駄なメッセージでも、なんでもいいから。
オレに逢いたいって、そう言って。
「ふーん。クール、ねぇ」
オレたちは手荷物を受け取るためにコンベアの前で待機していた。
「青峰っちこそ、もう桃っち、この1週間でもう他の男に取られちゃったかも……いってぇ!」
理不尽な回し蹴りが飛んで来た。
「黙れ黄瀬」
「暴力反対!」
「お、来た」
目の前のコンベアに流れてきた自分のキャリーケースをひょいと持ち上げ、ギャアギャアと話をしながら2人で出口へと向かった。
「はあ、家までが遠いんスよね」
空港から家に帰るまでの乗り換え順を頭の中でおさらいして、ハアとため息をつく。
「青峰っちんとこも、1時間半くらいかかるんスか?」
青峰っちは、先ほどから何やらスマートフォンに目を落としている。
「お、さつきんちのオヤジが迎えに来てくれるってよ」
「そうなんスか?」
「オマエもいる事言ってあるから、横浜位まで送って貰えるんじゃね?」
「マジっスか! やった!」
疲れ切った身体になんと嬉しい待遇。
「んじゃオレ、なんか飲み物でも買ってくっス」
「おじさんはコーヒー、ブラックしか飲まねえぞ」
「了解っス。さすが幼馴染みっスね」
お互いの家族のことまでバッチリ分かってる、って……羨ましい。
オレは、みわに関して知らない事ばっかりだ。