第70章 特別
バスケットボールを持った涼太は、クラスで女の子に笑顔を振りまく彼とは別人のようだった。
彼がボールを持ったら、もう誰も追いつけない。
一度見たプレーをその場ですぐコピー出来るなんて、そんな才能を持った選手が他にいるだろうか。
入部当初、涼太は真面目に練習はしていなくて、先輩方への不遜な態度も目立った。
でも、誠凛との練習試合で人生初の負けを経験してから、彼は変わった。
泣いて、人知れず悩んで、悩んだ分だけ、努力して、大きくなっていく。
今となっては、チームの誰よりチームの事を考えてプレーする素晴らしい選手だ。
チームが勝つためなら、自己犠牲も厭わない。
涼太がコート内を走ると、まるでその周りにだけ花が咲いているかのように華やかで。
気付いたら、目を奪われている。
真っ直ぐで、ひたむきで。
コートの外でも、それは変わらない。
素直な優しさに、いつも助けられていた。
気付いた時にはこころまで奪われていた。
汚れた私を、綺麗だって、可愛いって、言ってくれた。
全てを……受け止めてくれた。
「なんか、きっかけみたいなのとかあるの?
きーちゃんの事、好きになったきっかけ」
きっかけ……
分からない……
でも、こんなにも好きで……
もう、彼がいない事なんて考えられない……
「……気付いたら、好きになってた……」
「みわちゃん」
「分からないよ……分からないの……
だって、好きなんだもん……全部……」
一緒に過ごした時間が、全部キラキラ輝いている。
好き。
好き、なんて言葉じゃ足りないよ。
胸が苦しい……。
グッと締め付けられるような、この気持ち。
「ごめんね、みわちゃん、泣かないで」
言葉に出来ない想いが涙腺を壊していく。
次から次へと流れていく涙が止まらない。
逢いたい。
今すぐに、逢いたい。