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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第70章 特別


宿泊場所は、海沿いのシティホテルだった。

旅館の大部屋の方が費用的には抑えられる筈だけれど、選手たちが集中できるようにと、1人部屋が用意された。

勿論、選手側から同室の希望があった場合には、その限りではない。

実際、笠松くんと小堀くんは同室を希望していた。

ホテルには温泉もついているし、文句なしだ。

私も宿泊対象になっており、今は各部屋を回り、体調の確認とマッサージをしている。


でも、涼太だけは部屋に居なかった。


また無理な走り込みなんて……してないよね。

同じ過ちを犯すタイプではない。
分かってはいるけれど……。

心配になってホテルを出て海沿いの道を探しながら歩くと、浜辺で座っている影が1つ。

短く切った黄色い髪が、宵闇に浮かび上がっている。






さく、さくと砂浜を踏みしめる音にも気付かないようだ。

「……涼太」

「あ、みわ」

その声は、波の音にかき消されてしまいそうなほどに小さいものだった。

「ごめんね。精神統一でもしてた?」

「ん、大丈夫。もう戻ろうかと思ってたところ」

隣に座り、海を眺める。

波打際こそ視認できるけれど、海そのものは真っ黒で、ブラックホールのようだ。

「……いよいよだね」

「そうっスね……」

「緊張……してる?」

涼太はいつも、コートに入るまでは大して緊張しないタイプらしい。

だから、今日もそういう返事が来るかと予想していたら……

「少し、ね」

そう言って少し伏せた瞳を隠す睫毛が、微かに揺れていた。

「勝てる自信は?」

「……正直、分かんねっス。
やれるだけの事をやる。それだけ」

ゆっくりまばたきをすると、次に開いた瞳はいつも通りに強く、ただ真っ直ぐ前を見据えていた。

「……後悔のないように、やろう」

そう、自分に言い聞かせているかのような強い言葉。



波の音は、先ほどまでよりも優しく2人の耳に響いた。


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