第70章 特別
蝉の声ですら、選手たちを鼓舞する声援に聞こえる。
ゆらゆらと陽炎のように揺らぐアスファルトは、体育館を砂漠の中の蜃気楼のように仕立てあげていた。
高校生活最後の、夏。
インターハイ、今年のバスケットボール本戦の会場は、千葉県。
神奈川や東京からなら、朝早く出発すれば十分間に合う距離だが、学校側が、レギュラー陣の会場付近での宿泊を勧めた。
費用は学校側が持ってくれるというのだから、今までとは随分な違いである。
しかし、そのお陰で前日から体調を整え、当日もゆっくり睡眠を取れた選手たちの顔色は良かった。
怪我人もなくトーナメントも順当に勝ち上がり……。
明日はいよいよ決勝戦。
今年の夏は、とにかく暑い。
梅雨が明けた途端に抑圧されていた太陽が猛々しく輝き、気温が40度に迫る日も少なくない。
外気温が高温になると、体育館内は更に高温になる。
サウナなんてものが可愛く思えるくらい。
海常で3年間練習をしてきた3年生でさえ、その暑さに負けて吐いたり倒れたりする人が続出した。
キオちゃんやスズさんらマネージャーたちも、「人生の内でこんなに疲れた事はないかもしれない」と言っていたほどだ。
そして、インターハイ予選を通過した時点で、1年生の笠松くんと小堀くんがレギュラー入り。
夏の時点で1年生が2人もレギュラーになっているのは、全国上位の学校の中でも、うちの学校くらいのものだった。
それだけ、彼らのプレーとガッツには評価すべき点がある。
今年はいける。
今年こそは。
誰もがそう思い、明日の決勝戦に想いを馳せていた。