第70章 特別
「なんの説得力もないけど、開けるなら……卒業してからの方が良くないっスか?
これから受験もあるし」
「受験……そっか……そうだよね」
みわはうーんと考え出した。
珍しく、突発的な発想だったらしい。
「それまでに良さそうな病院探しといてあげるっスよ」
「え……」
彼女は驚いたような顔。
?
「あ、もう病院は決めてるんスか?」
「……涼太は、どうやって開けたの?」
懐かしいな。
開けたのは8月の暑い時期だった。
度胸試し的に一発と……。
「オレは自分でピアッサー買って、バチンと」
みわは再び枕元を探った。
戻ってきた彼女の掌に乗っているのは、未開封のピアッサー。
「……自分で開けるの?
ちゃんと消毒してくれるし、質の良いファーストピアスも貰えるから病院の方が良さそうっスけど……」
「……涼太に、開けて欲しい、の」
……
……こんな大事な耳に穴を開けるのに、素人のオレがやっていいんだろうか……。
「オレに? ……やっぱり、ちゃんと病院で」
「涼太……開けて」
う、か、可愛い。
こんな、こんな声と上目遣いで頼まれたら……。
「……分かったっス。
じゃあ、卒業式の日に開けてあげる。
それまで、このピアスとピアッサーは預かるっスよ」
「ありがとう、涼太」
ふにゃりと笑うのはいつものみわ。
はぁ。チョロいな、オレ。
でもまた、彼女との約束が1つ出来た。
柔らかい彼女の耳朶を再びぷにぷにと触る。
ここに、オレが穴を開ける……。
なんだか、今からキンチョーしてきたな……。
「なんか、重大任務っスわ」
「ふふ、気楽にお願いします」
あ、また、花が咲いたような笑顔。
みわは、本当に表情が豊かになった。
初めて電車内で会った時、恐怖に満ちた表情。
学校では、微笑むことがない固い表情。
マネージャーをやるようになって、暫くしてから笑顔も増えてきて。
少しずつ、少しずつ変わってきたんだなと思う。
オレも、みわも。