第70章 特別
この時期特有の湿度によって、いつもよりも強く香る畳の匂い。
布団は2組並べて敷いてあるが、今2人はその片方の布団で向かい合って正座していた。
就寝準備は既に終えた。
あとは寝るだけ、だ。
「みわ、今日はホントに、ありがとね。
嬉しかった。料理も、プレゼントも……メッセージもさ」
みわは、風呂上がりで上気した頬を更に赤らめていた。
「ま、まさかここで見られるとは思わなくて、全く想定外の事態で恥ずかしくて倒れそうなんだけど……」
「嬉しいっスよ、すごく」
ブローしてふわふわになった髪を優しくかき上げると、みわの香りが舞った。
「みわ……もう1つ、欲しいものがあるんスけど」
「うん」
満面の笑顔は、今この時、オレだけに向けられたもの。
「……みわが、欲しい」
「……うん、んっ……」
みわの返事に被せるように、唇を重ねた。
みわを優しく押し倒し、軽いキスを続けていると、先ほどまでの気持ちが少し和らいでいくようだ。
これなら大丈夫、いつも通りだ。
そう思ったのに、みわの身体に触れる指がまた、震えてしまう。
Sariと一悶着あった時には、みわを抱く事で汚してしまわないか、受け入れて貰えるかと不安に駆られたけど、今回は違う。
壊してしまわないか。
嫌われてしまわないか。
この気持ちを伝えられるか。
まるで、初めてみわを抱いた時のような緊張感。
優しく、傷付けないように、気持ち良くなるように、そんな事ばかりが頭をよぎって。
真綿でくるむように、優しく、優しく抱きたい。