第70章 特別
「あっ!!」
軽い足音が背後で止まり、ゴトンと焦ったようにグラスを机に置いた音がする。
「み、見ちゃった……?」
そーっとオレを覗き込んだ顔は、リンゴみたいに紅潮していた。
「……涼太……?」
彼女の細い指がオレの頬に触れて、涙を拭いてくれる。
でも、流れ出る涙は止まらない。
彼女を愛おしいと思う気持ちとシンクロして、とめどなく溢れてくる。
「……みわ……」
今日、ずっと感じていたこの感覚。
触れたいのに、触れられない。
好きすぎて。
愛おしすぎて。
大切すぎて、触れられないなんて事があるのか。
「どう、したの……?」
心配そうにオレを見つめる目。
いつもの調子でキスをして、身体を触って。
そうしたいのに。
手が、固まったように動かない。
みわが、大事すぎておかしくなりそうだ。
目の前で頑張る女の子が、ただそれだけでオレに力をくれる。
大好きな人が自分に返してくれる愛が、胸が苦しくなるほどあったかいものだなんて知らなかった。
みわに逢うまで、知らなかった。
その気持ちが、日を追うごとに大きくなって。
気付かぬ内に、こんなにも好きになっていた。
「みわ……ありがとう……」
「……恥ずかしすぎて私、埋まりそう……」
両手でその頬を包む。
手が、震える。
唇を合わせたい、それだけなのに。
目が合ったまま、そこから先に進めない。
いつもなら恥ずかしそうにすぐ目を逸らすみわ、今日はオレの気持ちを分かってくれているからか、必死にその大きな瞳を合わせてくれている。
それなのに、どうしても身体が動かない。
すると、そんなオレを心配そうに見ていたみわが、今度はオレの頬を両手で包み、そっと唇を合わせてくれた。
温かい。
ふんわりと唇に重なる熱は、よく知ったものなのに初めて味わうかのようで。
やっぱり涙が、止まらないんだ。