第70章 特別
「ち、違うよ……私が、私の方がいつも貰ってばかりで何も返せていないから……」
それは違う。
それは違うっスよ、みわ。
いつもみたいに、そう伝えればいい。
なのに、今日はうまく言葉が出ない。
「……ごめんね、暗い所で。戻ろ?」
「……うん」
みわの細い身体がするりと抜けていく。
ベランダから部屋に戻って、みわの部屋に2人で足を踏み入れた。
もう慣れた空間。
なんか、胸がドキドキと騒ぐ。
なんでだ?
何が原因?
「喉、渇かない? お茶持ってくるね」
パタパタと去って行く足音。
オレは返事もせず、貰ったピアスを外し、メッセージカードを取り出す。
家で1人で見ろと言われたけど、至極自然に手が動いていた。
グレーがかったシルバーのピアス。
やっぱり、サイズは以前のものと殆ど変わらない。
指でゆるりと撫でると、内側に小さく光る石が入っているのを見つけた。
これは……パール。
6月の誕生石のうちの1つだ。
確か、雑誌の撮影の時にスタッフさんが話しているのを一緒になって聞いてたな。
邪気を払う、って意味もあるんだっけ。
ピアスをつけたら前からは見えない造りになっている。
陰で守ってくれている、みわみたいだ。
彼女が側で守ってくれているみたいで、嬉しい。
石のすぐ横に、文字が刻印されているのに気が付いた。
「…………」
その文字を暫く見つめてから、
メッセージカードを開いた。
『黄瀬 涼太様
お誕生日、おめでとう。
涼太、
こんな私と付き合ってくれて、
ありがとう。
こんな私を好きになってくれて、
ありがとう。
いつも心配ばかり、迷惑ばかりかけて、
ごめんなさい。
こんな私ですが、
これからもよろしくお願いします。
Love you now and forever.
今もこれからも
ずっとあなたを愛しています。
神崎 みわより』
Love you now and forever.
ピアスには、そう刻まれていた。
頬を、温かいものが伝っていくのを感じた。