第70章 特別
「あ、あたま、気を付けてね」
おばあちゃんの家のベランダは、ホントに昔ながらのって感じで、屋根が低い。
ついでに、ベランダに出れる窓も高い位置にあるから、気合いを入れて勢いをつけて上がらなければならない。
バリアフリーなんて、無縁の造りだ。
おばあちゃんは、山ほどお金があってもこの家は建て替えないんだと言う。
おじいちゃんと過ごしたこの家で、最期まで過ごしたいんだって。
2人の想い出が詰まった、あったかい家。
だから、不便かもしれないけど、今風の家じゃないからちょっとダサいと言われるかもしれないけど、私はこの家が大好き。
「ヨイショ」
涼太が頭上を警戒しながらベランダに出てきてくれる。
足元は、洗濯物を干す時に使っている近所の靴屋さんで買ったサンダル。
この狭いベランダにライトなんてオシャレなものがあるわけもなく。
おまけに、雨は降っていないけれど空は少し雲がかっていて、月の光も殆ど届いていない。
つまり、結構、暗い。
真っ暗で何も見えない、というわけではないけれど。
室内の明かりが届いて、ようやく手元が見えるくらいだ。
……だから、ここに来て貰ったんだけど。
ここで誕生日プレゼントを渡そうなんて、怒られてしまうだろうか。
「なになに? なんかナイショのハナシ?」
涼太が楽しそうに空を眺めている。
「みわの好きな月、見えないっスね」
「う、うん、そうだね」
手の中に持っている小さな紙袋を、彼の前に差し出した。
「……涼太、お誕生日……おめでとう」
涼太はそれを見ると、薄暗さを感じさせないような眩しい笑顔を見せてくれた。
「ありがとう。……お金、使わせちゃったんスね」