第70章 特別
「お誕生日おめでとう!!!」
男子更衣室で鳴り響くクラッカー。
複数の乾いた音とともに白煙と煙の臭いが立ち込める。
今日ばかりは女子もこの部屋に入れるようにとドアも開放してあって、更衣室内は凄い人数がひしめき合っていた。
「黄瀬、おめでと」
「黄瀬先輩、おめでとうございますっ!」
次から次へと差し出されるプレゼントたち。
折角なので開けてみると、タオルやらリストバンドからネタなものやアダルトグッズまで、オイオイと言いたくなるものもありつつ大爆笑。
でも、オレの為に選んでくれたのが嬉しい。
普段はただひたすら男臭い更衣室内が、今日は笑顔と笑い声で溢れていた。
「アリガト、皆。嬉しいっス」
正直、オレはキャプテンとかっていうタイプじゃないし、これでいいのかと思う事もあるけど……。
それでも、この仲間たちと一緒にバスケをやれるのはやっぱり幸せな事だ。
「黄瀬先輩、これはマネージャーの皆からです!」
「アリガト! 開けていい?」
長細い包みを開けると、保温性能に優れた深い青色のドリンクボトルだった。
片手で開封出来るようになっており、ドリンクホルダーも付いていてボトル自体も軽量なので、ランニングの時の携帯にも良さそうだ。
おまけに、名前入り。
「おお、カッコいいっスね!」
「良ければ使って下さい」
みわを含めた複数のマネージャーが、口々におめでとうと言ってぺこりとお辞儀をしていく。
おめでとう。
ありがとう。
優しい言葉だなあと思いながら、自分に向けられる祝福の言葉をひとつずつ受け止めていった。
今年も、ファンの子からのプレゼントは全て断った。
去年で懲りている子の中には、きっと受け取って貰えないだろうからとわざわざ手紙だけ書いてロッカーに入れてあったり。
うざったいな、面倒臭いなとしか思っていなかった行事も、感謝の気持ちを抱けるようになっていた。
普段からそういう気持ちで生きている、みわの影響だと思う。
そんな彼女だから、皆に愛されるんだ。