第69章 偽り
「こっち! スキだらけっスよ!」
「!!」
笠松くん本人が気付いた時には、既にドライブで抜き去られた後。
シュートモーションに入った涼太を止めようと、ゴール下で待ち構えた小堀くんがブロックに飛んだ瞬間……
涼太のダブルクラッチで、ボールはスルリとゴールに吸い込まれていった。
「飛ぶタイミングが少し早いから、こう切り替えられるっスね」
「……マジ、すげぇ……」
「今、一瞬だって目なんか離してないのに……」
完全にスタミナ切れを起こし、息切れして座り込む2人とは対照的に、涼太はまだまだ余裕の表情。
体力作りから始めないと、だね。
涼太のボールハンドリングは、去年よりもずっとずっと磨かれている。
もう既に全国レベルなのに、成長速度は落ちる事を知らない。
底無しの体力だけじゃない。
底無しの、バスケセンス。
仲間として見ている私ですら、ぞくぞくするプレー。
このひとは、世界で活躍する選手になる。
身内の欲目ではなく、素直にそう思う。
自主練の時間いっぱい、体育館の中は3人の声が響き渡っていた。
朝練が終わり、更衣室で着替えを済ませていると、背後から聞き慣れた声。
「おはようございます、神崎先輩」
いつもよりも元気のない声に振り向くと、スズさんが立っていた。
流石に昨日の事がショックだったんだろう。
「先輩、バカだと思いますか?
あんなに浮かれて……勘違いして……」
小さく縮こまった肩を、そっと包んだ。
「思わないよ。良かった、何か起こる前で。
黄瀬くんから聞いたと思うけど、ちゃんと専門家に相談するんだよ」
「……はい……」
「むしろごめんね。私、そういうのに疎くて。
もっと早く気づいてあげられればよかった」
「いえ……悪いのはわたしなので……」
スズさんはそう言うと、トボトボと去って行ってしまった。
今日は水曜日、部活は休養日だ。
ゆっくり休めるといいけど……。
私は放課後横浜まで、注文してあった涼太の誕生日プレゼントを受け取りに行くんだ。
その足でおばあちゃんに会いに行くから、今日は帰るのが遅くなってしまうかもしれないな。