第69章 偽り
……また、涼太のいつものパターンに流されてしまった……。
軋む腰を支えながら登校すると、既に体育館では涼太が1人、練習を始めていた。
本当に、底無しの体力……。
その練習を、離れた所から見ている影2つ。
その後ろ姿は、見慣れた人たちによく似ていて、なんだかとても懐かしくなる。
ツンツンとした黒髪に、もう片方は少し柔らかそうな茶色がかった髪。
どちらも、お兄さんよりも若干身長が高い。
笠松くんと、小堀くん。
「おはよう」
後ろから声を掛けると、2人とも飛び跳ねる勢いで振り向いた。
「おっ、おはようございます! 神崎先輩!」
先日お会いした先輩方よりも、やはり少し幼い印象の顔つき。
でも、そのプレーはお兄さんに引けを取らない。
「もっと、近くで見たら?」
「いっ、いえ! 先輩の自主練の邪魔になりますしっ!」
「1 on 1とかも、どんどん頼んでいいのに」
涼太、1 on 1大好きだし……と思って言ったのに、2人はまるで信じられないものを見たような表情に変わった。
「そんな! そんな大それた事お願いできないっす!」
「え、そう……?」
新入生の中で誰よりも向上心とやる気がある2人。
新しい力は涼太の刺激にもなるし、2人には涼太の良いところをどんどん吸収して、強くなって欲しいのに。
そんな2人を見て、2年前の涼太を思い出した。
インターハイ桐皇戦、青峰さんに向けた言葉。
憧れてしまえば、超えられない。
涼太が新しい一歩を踏み出した、一言。
"憧れるのはもう……やめる"
あの、少し哀しい……あの声は、今でも耳に残っている。
「憧れてしまったら、……超えられないよ」
本当は、誰にも言われずに自分で気付かなければならないのかもしれない。
でも、ゆっくり構えている余裕はない。
今年が最後のチャンスなんだ。
私が出来ることなら、なんでもする。
2人は少し考えたように俯き、グッと拳を握ると、コートに向かって走り出した。
「……黄瀬先輩! 1 on 1お願いします!」
涼太は振り向き、シャツの首元で汗を拭いながら嬉しそうに微笑んだ。
「2人一緒でも、いいっスよ?」