第69章 偽り
いつもは行為の後、彼に包まれるように眠るのが殆どだけれど、たまにこうして甘えてきてくれることがある。
私しか知らない……のかもしれない、彼の可愛い一面。
自分の胸元に視線を落とすと、整った鼻梁と長い睫毛が見える。
すぅすぅと、規則正しく聞こえてくる寝息。
……可愛い。
無性にぎゅーッとしたくなってしまう。
だめだめ、そんな事したら起きちゃう。
涼太が海常バスケ部主将として動き出してから早くも1ヶ月と少し。
主将兼エースというのは、並々ならぬプレッシャーだと思う。
それなのに、彼はコートの中で誰よりも元気で、誰よりも明るく、誰よりも動き、誰よりも美しく、そして誰よりも強い。
そんな彼に羨望の眼差しが集まるのは必然。
でも、いいことばかりではない。
対等に接する事が出来る人間がいない。
笠松先輩には小堀先輩や森山先輩。
早川先輩には中村先輩。
皆、身近に主将のサポートが出来る人がいた。
今の涼太にはそれがない。
彼が悪いわけでは決してない。
彼の力が、魅力が大きすぎるんだ。
周りの人間は彼に圧倒され、自然と憧れの存在にしてしまう。
同じチームの中ですら、そういう事が起きていた。
涼太もそれは、分かっているんだろう。
人前ではひたすらに明るく、悩む様子も疲れた様子も見せない彼を、心配していた。
たかがマネージャーだけど、私が彼を支える存在になりたい。
彼を胸に抱いていると、どうしようもないくらい胸が苦しくなる。
好き。
この人が、この人の全てが、好き……。
声に出したら涙が零れてしまいそうな程に好きすぎて。
彼が少しでも安らかでいられる場所になれますように。
そう願って柔らかい髪にキスを落とし、混じり合う熱に身を任せる様に、ゆっくりと目を閉じた。