第69章 偽り
「もしもし、黄瀬です。
スンマセン、忙しいとこ。
あの、スカウト詐欺の業者のリスト、送って貰えないっスか?
あー、そうなんス。よろしくお願いします」
涼太は簡潔にそれだけ言って、通話を終わらせた。
すぐにまた画面を素早くタッチし、形の良い耳にスマートフォンを当てる。
「あ、スズサン? オレ、黄瀬だけど」
何を言っているかまでは判別できないけれど、スピーカーの向こう側の声のトーンが高くなったのが分かった。
「なんか、モデル事務所に声かけられたって?
ちょっとアヤシイけど、大丈夫?
宣材写真って、トップレスじゃない?」
涼太の表情が、険しいものになっていく。
「……金は? まだ払ってない?
それ、詐欺だ。絶対払わないで。
名刺貰った? こっちで詐欺業者のリストあるから、照らし合わせてみる。
良ければ写真送って」
再び通話を終了させると、ハァとため息をついた。
「ダメだ。真っ黒」
「詐欺って、こと?
まだお金払ってないなら、大丈夫?」
「んー、もう裸の写真撮られてるしな……」
「ええ!?」
「宣材写真……宣材って宣伝材料の略なんスけど、それを撮る時にトップレスだったって」
「トップレスって……」
よく、海外でトップレス抗議とかって起きたりするけど……もしやそれは……。
「上半身裸ってこと」
「えええッ!?」
「いや、結構常套手段なんスよね……。
後でそれをネタに脅してAV出演させたりとか」
「そ、そんなのどうしたらいいの?
警察に通報?」
「いやー……警察はこういうの事件化したくなくて、なかなか動いてくんないんスよね。
フツーに法テラスとかに相談した方がいいとは聞いたっスわ」
「何それ……怖い……酷い」
世の中には、溢れているんだ。
悪意が。
油断していると、呑み込まれてしまう。