第69章 偽り
壁際に立てかけてあるのは、涼太と写っている香水の広告写真。
涼太が貰ってきてくれたボードを、安物だけどUV加工がされている額に入れて、飾っている。
「モデルやってる時のみわ、キレイだったっスね……」
もう、あの時のことは恥ずかしすぎてあまり思い出したくない。
「あ、モデルって言えば……スズさんがモデルにスカウトされたんだって」
「……へえ、スカウト? どこで?」
「んー、横浜って言ってたけど……あんまり詳しくは聞いてなくて」
「それ、大丈夫っスかね?」
涼太が怪訝そうな顔をしている。
その反応は、意外だった。
「大丈夫って、何が?」
「いや、今多いらしいから……スカウト詐欺」
「……へ?」
「知らないんスか? テレビでも結構やってるけど……」
「なに、なにそれ」
「いや、偽スカウトマンに捕まって、事務所所属させるって言って高額の契約料取られたり、AVに出演させられたり、とか……」
「ええ!?」
そんなの、全然知らなかった……!
私、気楽に凄いね、なんて言っちゃって……
「今日事務所に行くって言ってたけど、大丈夫かな……」
「いやまあ、ニセモノとは決めつけらんねえっスけど……変なのに捕まってないといいけどね」
「ちょっと私、電話してみる……」
枕元に放り投げられた鞄から、まだ震える手でスマートフォンを取り出し、スズさんに電話をかけた。
『はい、神崎先輩ですか?』
良かった、声は元気そう。
「スズさん、もう帰ってきた?
モデルの事務所って、大丈夫だった?」
『もう帰って来ましたよ。
今日は宣材写真と契約の説明だけだったし』
「洗剤?」
『あ、すみません、ちょっと事務所から電話がかかってくる予定なので……』
「あ、忙しいのにごめんね、またかけるね」
『失礼しまーす』
「……」
「スズサン、なんだって?」
「ん、なんか、洗剤の写真を撮ったって……」
どういう意味だろう?
「宣材写真? このタイミングで?」
あ、涼太には通じてる。
「……なんか、胡散臭いっスね……」
涼太もいつの間にかスマートフォンを片手に持ち、電話をかけ出した。