第69章 偽り
笠松クンや小堀クンの入学に驚いていたのが懐かしくなるくらい、時が流れるのは早くて。
5月に入ると、2人は既に1軍のコートに立っていた。
新入生がこんなに早く1軍入りするのは、オレ以来の事らしい。(オレは入学前から1軍入りが決まってたけど……)
2人とも、お兄さんのプレーを近くで見ていただけあって、プレースタイルが似ている。
それはつまり、海常のプレースタイルに非常にしっくりくるという事。
そんな2人の1軍入りが早まるのは、必然と言ってもいいだろう。
まだ怖いもの知らずという事もあるが、粗削りでありつつも思い切りの良いプレーはレギュラー陣の肝を十分に冷やすものだった。
部内のポジション争いが激しくなるのは、全体のレベルアップにも通じる。
望むところっス!
……とか言ってたら、黄瀬先輩はポジションが被っていないから気楽でいいですよね、なんて後輩に嫌味を言われてしまった。
確かに去年も今年も、戦力になりそうなSFが入って来ない。
オレに憧れてと言って入部してきてくれる子達も、気付けば他のポジションを担当していたりするし……。
来年以降の戦力ダウンが少し心配になりつつ。
「なーんか最近、平和っスね……」
屋上でみわと並んで昼ご飯を食べつつ、ぽつりと漏らした。
「ん? 何か、トラブルが起こって欲しいの?」
みわはお弁当を一口ぱくりと食べながら言った。
「いや、1年の時にこれでもかってくらい色々あったから……なんか、最近の平和さがコワイっスわ」
オレも、お弁当を一口。
1つ作るのも2つ作るのも同じだと、最近はみわが作ってくれるのだ。
「そうだね、確かにあの時期に比べたらずっと平和」
「こんなに毎日穏やかで……嵐の前の静けさって感じがコワイんス」
「嵐の前の静けさ……かあ、そうだね、平和に卒業出来たらいいなあ」
「なんかこれってフラグじゃねえスか?」
「ん? フラグ?」
「いや、なんでもないっス……
ほら、噂をすれば……的な、さ」
「平和が一番だよ」
にこにことお弁当を頬張るみわと、穏やかな時間。
夏に負けない陽射しを浴びつつも、季節はまた梅雨に向かっている。