第69章 偽り
「……やっぱり、ショックだった?」
「最初……おばあちゃんが嘘をついてるかも、と思った時は正直に言って……ショックだった」
くしゃりと、涼太の大きな手が私の頭を撫でた。
缶で温まった指先が、まるで慰めるかのように包んでくれる。
「でも、おばあちゃんは私を騙していたわけじゃないから……そこは分かっているから」
「……うん、そうっスね」
「そもそも私、家族ってよく分かってないから……家族っていうものに価値を感じてないから……だからちゃんと受け止められたっていうのもあると思う。心配かけてごめんね」
そう。
大丈夫。
分かってる。
なのに、胸にぽっかりと穴が開いたようなこの感覚はなんだろう?
「無理に、受け止めなくてもいいんスよ」
涼太から出た意外な言葉に、思考が一瞬止まる。
「……え……?」
受け止めなくて……いい?
「そんなに、カンタンな事じゃないと思うから。
みわがゆっくり考えて、みわなりにゆっくり受け止められればいいと思うっスよ」
ゆっくり……
私なりに……。
そうすれば、この胸の違和感の理由が分かる?
「お祖母さんのために……って思って、自分の気持ち、抑えてない?」
「そんな……抑えてなんて、いない……よ」
でも、こころの中で何かが燻っている。
「いつもイイコでいる必要はないっスよ、みわ」
その言葉が、なんだか無性に胸に沁みて、
気が付いたらぽろりと涙が零れていた。
おばあちゃんは私のおばあちゃんだ。
それは変わらない、ずっと。
分かっているのに、でも、何か大切なものを失ってしまったような気もしていて……。
そう考えてしまう事自体が、いけない事だと思っていて、そんな風に感じてしまう自分も嫌だった。
でも、それでいいのかな。
ゆっくりで、いいのかな。
涼太は、優しく抱き締めてくれた。
そのぬくもりの中でそっと目を瞑ると、涼太の香りに混じって、ココアの香り。
この気持ちの正体は分からないまま。
今は、それでもいい。
そう思えた。