第69章 偽り
「もしもし……涼太? 今大丈夫?
私ね、おばあちゃんと少し話したよ」
涼太の背後がなんだか騒がしい。
外……なのかな?
『あ、今 ちょうど近くにいるけど、出て来れるっスか?』
「え? 近くに?」
こんな時間に?
『うん、走りに来てるんス。
もし、みわが良ければ直接……』
「行く! ちょ、ちょっと待ってて!」
私は慌ててコートを手に取り、家を飛び出した。
日はとっぷり暮れて、行き交う人々の顔すら朧げにしか確認できないほど、辺りは闇と静寂に包まれている。
吐く息が視界を白く染め、視覚を鈍らせても、夜道に浮かび上がるようにして佇んでいる彼だけはすぐに確認出来た。どうしてかな。
その黄の髪が、存在自体が灯火のようだ。
行く先を迷う私の様な人間の先を照らしてくれる、あかり。
「ごめんね涼太、お待たせ。冷えてない?」
「大丈夫っスよ。どこか店入る?」
「私は外でも平気だけど……」
何より、慌てすぎてスマートフォンしか持ってきていなかった。
「じゃ、そこの公園行こっか」
涼太は左手の手袋を外して私の右手を取ってくれる。
手は驚く程冷え切っていた。
あまりに不自然な状況を不思議に思っていたけれど、やっぱり、わざわざ来てくれたんだ。
「なんか飲もっか」
涼太が自販機でホットゆずを買ってくれた。
彼はココアを手にしている。
「ありがとう。あったかいね」
私はペットボトルの蓋、涼太は缶のプルタブをカシュッと開けると、吐く息とは違った緩やかな湯気が立ち上る。
一口飲むと、その温かさと甘みにホッとした。
ホットだけにホッと。
……また誠凛の伊月さんが乗り移った……?
「おいしい」
「ホント、寒空の下で飲むのは格別っスわ」
「あのね、涼太」
「うん」
「……おばあちゃんが、話してくれたの」
「うん」
「……詳しい事はまたゆっくり話すけど、やっぱり……チハルさんの言う通りだった。
でも、だからと言って何か変わるわけじゃないし、これからもおばあちゃんは私のおばあちゃん」
「そっか。そうっスよね」
そう。
大事な大事なおばあちゃん。