第69章 偽り
おばあちゃんは、気づいたら私のおばあちゃんだった。
でもきっと、チハルさんの話からすると、記憶がなくなる前の私はちゃんとその関係性が分かっていたんだろう。
おばあちゃんは、ゆっくり話してくれた。
おばあちゃんは資産家のおじいちゃんと、周囲から反対されながらも恋愛し、結婚したこと。
2人の間には子どもが出来なかったこと。
おじいちゃんに早くに先立たれてしまったこと。
沢山の資産だけが手元に残り、この先の人生をどう生きていったらいいのか途方に暮れ、毎日おじいちゃんの後を追う事ばかり考えていたこと。
このままじゃいけないと参加した遺族ケアのセミナーで、理由があって貧しい家庭への支援の話を聞いたこと。
抜け殻のように生きている自分をどうにかしたいと、その支援の話を受けたこと。
そこで、私たち母娘に出会ったこと。
私がおばあちゃんに懐いたこともあり、金銭的支援だけではなく、家族のように付き合うようになっていったこと。
私が小学生の時に、おばあちゃんの所へ遊びに行った私の顔を見て、虐待を受けている事実に気付いたこと。
チハルさんの所へは、最初はおばあちゃんが連れて行ってくれていたらしい。
……私は誰から虐待を受けているかを絶対に言わず、お母さんが殴っているものと思っていたそうだ。
チハルさんに話した通り、おばあちゃんは私を引き取って一緒に暮らす事を考えていたのに、お母さんが猛烈に反対して認められなかったこと。
おばあちゃんはそこまで話すと、ふうと大きく息をついた。
「ごめんね、みわ。ずっとあなたのおばあちゃんだと、嘘をついて。
あなたがこれ以上傷つくのを、独りになっていくのを、見ていられなかった」
おばあちゃんの皺々の手が、私の手を包む。
「でも、あなたが素敵な人に出会って……前を向いていってるのを見て……もう、話してもいいかもしれないと、そう思っていたの」
嘘。
そう、おばあちゃんは私に嘘をついていた。
でも、なんて優しい嘘なんだろう。
私を想ってくれる人の、優しい優しい嘘。
私はそれに気付かず、ずっと甘えてきたんだ。
「おばあちゃん、ごめんなさい……ありがとう……」