第69章 偽り
「ええ……」
先程から涼太が鞄を買ってくれると言ってきかない。
おうちにはちゃんと2つくらい持ってるから、十分なのに。
確かにとっても素敵なんだけど……。
「どっち? トート? リュック?」
「う、う」
もう完全に二択になっている。
買わないという選択肢は彼の中にない。
「それとも他のがいいかな……」
そう言って涼太は更に店内奥に進もうとする。
「いや! 大丈夫! この2つのどちらかにするから!!」
一拍置いて涼太は振り返り、ニッコリと笑った。
しまった。
「じゃあ、どっちも買おうか。安いし」
このひとは、次から次へととんでもない事を言い放つ。
「待って、待って選ぶから! どっちか、どっちかで十分」
「えー、そう?」
「そう、そう! あの、じゃあこのリュックがいいな、いっぱい物が入りそうだし」
「……なんか無理矢理じゃない?」
「無理矢理じゃない! リュック、欲しかったし」
これはホントのこと。
これから色々勉強するようになって、ちゃんと荷物が入る鞄がいつかは欲しいなと思っていて。
……ちゃんと自分でお小遣い貯めて買おうと思ってたのに……。
「他になんか欲しいデザインのとかある? 今オレが見てて気に入ったのピックアップしちゃっただけだし」
「ううん、これが凄くオシャレ」
カジュアル過ぎないし、カタくなり過ぎないデザイン。
何より、涼太が選んでくれたっていうのが……。
「じゃ、会計済ませちゃお」
「ごめんね」
涼太がレジに行くと、店員のお姉さんが涼太を二度見し、その後に私をチラッと見た。
"なんだ、女連れか"と言いたそうな目。
涼太って本当に、モテるんだから。
「あ、これ着て行くんでタグ切って貰ってもいいスか」
「はい、かしこまりました」
語尾にハートが見えるようだ。
「お待たせ、みわ」
買って貰ったうえに、荷物は涼太が持ってくれている。
「ホントに、買って貰ってばっかりで……ごめんなさい」
「みわ、さっきからそうじゃないっしょ」
「……ありがとう」
「ん、よくできました。
オレは使って貰えれば満足」
「使うよ! 大事にする!」
もしかして……気が紛れるように気を遣ってくれた?
涼太は何も言わずに微笑むだけだった。