第69章 偽り
「ん~……どれにしよっかな……」
おシャカになったのはフード付きのダッフルコートだったけど、気分転換に違う形の物にするか。
特に理由はないけど、目についたグレーのダウンコートを手に取り、軽く羽織ってみる。
「みわ、どうかな」
みわと鏡の前で軽くターン。
「いつもと違う感じだね。素敵」
「んじゃコレにしよっかな。気に入った。安いし」
それに何より、海外メーカーのものはサイズが豊富で助かる。
国内メーカーだと、いざ気に入った服を見つけても、袖が短かったり腹がはみ出たり……。
あんまりオレに合うサイズ展開をしてくれているメーカーがない。
「すごいね、即決」
「まあ、なんだっていいんスけどね」
「どれも似合うもんね、涼太」
優しいその微笑みについ安心しそうになるけど、きっと彼女のこころの中は今、荒れているだろう。
「……みわもなんか服、買ってあげようか」
「ううん、あるから大丈夫だよ!」
即答されるという悲しみ。
みわは、必要最低限の衣類や装飾品があればそれで満足するタイプだ。
だから靴も鞄もそんなに種類がない。
壊れたら、さすがに買い替えを考えるんだろうけど。
オレは、もっと貢ぎたいんスけど……。
「あ、みわ、このバッグはどうスか?」
みわは学校鞄以外に、小さなトートバッグとショルダーバッグくらいしか見た事がない。
大きなトートバッグを見つけ、手に取った。
ちょっと高校生向き、というよりもOLサンの方が使ってそうなシンプルなデザイン。
色はブラック。一見地味だけど、素材もしっかりしているし、そんなに高くない割に長く使えそう。
「それともリュック?」
素材が薄めのリュックも一緒にみわの前へ持っていく。
こちらはネイビー。
口が大きく開くようになっているから、書類や教材などを入れたりするのにもいいだろう。
それに、持ち手もついているから、大きなトートバッグとしても代用出来そうだ。
「涼太、ホントに私、今持ってるので十分だから」
「ダーメ、どっちか選んで」
もう無理矢理にでも買う。
そう決めた。
……ショッピングで憂さ晴らしするOLさんの気持ちがよーく、分かるっス。