第69章 偽り
チカゲサンの家を出てから、暫く2人の間には無言が続いた。
みわの手は冷たくて、ずっと握っているのになかなかオレの熱が移らない。
「はっ……クシュン!」
「涼太、大丈夫!?」
「あー、大丈夫大丈夫。
ちょっと鼻がムズムズしただけ」
オレの事、過保護過保護って言うけど、
みわも大概過保護っスよね。
チカゲサンの犠牲になったコートは現在クリーニング中。
チカゲサンのお父さんのコートを貸してくれると言ってくれたけど、返しに来るのが何倍も面倒なのでやめた。
丁重にお断りすると、チハルサンからコート代と言ってお金を少し貰ってしまった。
とりあえず着るものが無くて寒いので、駅前の商業施設へ向かっている。
今、オレを温めてくれているのはみわが貸してくれたマフラーと、寄り添ってくれている彼女の体温。
それ以外の部分は寒風に晒されて凍えそうだ。
……みわのお祖母さんが、本当のお祖母さんではない……?
そんな事、あるんだろうか。
お祖母さんを見ていても、特に違和感を感じた事はない。
それよりも、今までオレたちに起こった事の中でいくつか感じた違和感の方がずっと大きい。
でも、もしそれが本当なら?
みわの身近には親族が誰もいなくなる。
お母さんがいるから天涯孤独というわけではないだろうけれど、それでもお母さんとは疎遠になっている。
みわを支えてくれている存在が1人……いなくなる。
いや、もし本当のお祖母さんではないにしても、彼女がみわの事を想う気持ちに嘘は無いはずだし、それ程大きな問題ではないのかも……しれない。
みわはきっと先ほどからこの事で頭がいっぱいだろう。
でもそんな素振りは一切見せない。
「涼太、どこの店にする?」
「……あ、うーんと、そこにするっス」
オレたちは、駅ビルに入っていた海外のファストファッションメーカーの店に入った。