第69章 偽り
「そう……ですね」
涼太にこんな顔をさせてまで知る事ではない。
心細いからとつい同行をお願いしてしまったけど、本来ならこんな風に巻き込むべきじゃないんだ。
これはひとりで全部、受け止めるべきこと。
つい、記憶がない不快感を払拭する手がかりになるんじゃないかと焦ってしまった。
「また……来ても、いいですか?」
「勿論。さっきの名刺にアドレスが書いてあるから、事前に連絡を貰えれば日程を調整するわ」
「……よろしくお願いします」
涼太は何か言いたげな顔でこちらを見つめている。
「涼太もゴメンね、そのカッコのままじゃいくら部屋があったかくても風邪引いちゃうよ」
厚手の高級バスタオルに包まれているとは言え、きっと寒いだろうに……。
「みわ」
「そろそろ乾燥機も止まっただろうし、おいとましよう」
「……そっ、スね」
「ありがとうございました」
ぺこりとお辞儀をして立ち上がると、チハルさんが話題を変えようとしているのか、明るい声で話しかけてきてくれる。
「そうだ、ハツエさんはお元気?」
……その名前は……
「祖母ですか? はい、お陰様で元気です。
去年怪我をして、まだリハビリ中なんですが」
驚いた。
私、おばあちゃんとも来た事があるのかな。
「祖母……?」
しまった。違う人の話だったか。
そんなにありふれた名前でもないし、ついおばあちゃんの事かと……。
「あ、スミマセンてっきり祖母の事と勘違いしてしまって」
「ハツエさんよ?
貴女の事を引き取ってくれた、ハツエさん」
引き、取った……?
「あの時は貴女と一緒に暮らすと……そう言っていたけれど、違うのかしら。
今はお母様と暮らしているの?」
「いえ、今は……祖母と……暮らしています」
一瞬、チハルさんのポーカーフェイスが崩れた。
しまった、まずい事を言った。
そんな表情。
おばあちゃん、どういうこと?
おばあちゃんは、私のおばあちゃんじゃ、ない……?