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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第69章 偽り


シンと静まり返った室内。

「えっ……と、私の事は……覚えて、ない……のかしら?」

チカゲさんのお母さんは名刺を2枚取り出して、私と涼太、それぞれに手渡した。

名刺には 臨床心理士 精神保健福祉士 サカキ チハル と書いてある。

「サカキ……チハル……さん」

やはりその名前を聞いてもピンともこない。

おばあちゃんとの会話にも出て来た事がない名前だ。


「……すみません……」

「貴女が小学校高学年の時にお会いしたから、それほど昔じゃないと思うんだけど……」

小学校高学年。
それほど幼くない時に出会った人のようだ。
曖昧になった記憶と共に消えてしまっているらしい。

「…………す、すみません」

「病院名を言った方が分かり易いかしら」

そう言って地名と病院名を教えてくれたが、そのどちらにも覚えは全くなかった。

首を横に振ると、不思議そうな顔でチハルさんは首を傾げた。

「あ、あの……私、記憶が……ぼやけて、思い出せないみたいで……」

自分の事を説明するのに、他人事のようになってしまうのが情けない。

そう言うと、チハルさんは悲しそうな表情になった。

「そう……そうだったのね……」

「患者……っていうと、私はチハルさんのカウンセリングに通っていたという事でしょうか」

「そうよ」

何故家に睡眠薬や睡眠導入剤があるのか、不思議に思っていた。

きっと、記憶をなくす前に病院に通っていたのだろうという事はなんとなく想像していたけれど、まさかカウンセラーと直接会う事が出来るなんて。

「あの、教えて貰えませんか。私に何があったのか」

「……貴女は、虐待を受けていたの」

それは……知っている。
残っている数少ない記憶の中に、……ヤツとの記憶があるから。

でも……小学校高学年?
私の記憶の中にあるのは中学生の頃の事だ。時期が違う。

「本当に、私が小学生の頃にお世話になったのでしょうか。中学生……ではなかったですか?」

「いいえ。ハッキリと覚えているわ。小学生でランドセルを背負っていた貴女を。
私ももうあの病院で働いてはいないから、カルテを見る事は出来ないけれど……間違いない」

揺らがない口調。
こうなっては、私の記憶の方が怪しくなってくる。


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