第69章 偽り
「こっちにどうぞ」
誘導され、玄関とは逆の方向に歩き出す。
説明できない不安に、つい涼太の手を握り締めてしまっていた。
壁や天井がクリーム色で統一されているからか、家全体が明るい印象だ。
床板が軋まないしっかりとした造りの廊下を抜けると、2階へ繋がる階段があった。
玄関のすぐ横にも階段があったはずだけれど、どうしてわざわざこちらまで来る必要があったんだろうか?
「この階段はね、1つの部屋だけに繋がっているの」
まるで私の心の中でも読んだかのように、チカゲさんのお母さんはそう言って階段を上っていく。
階段にはちゃんと手すりが付いており、段の一段一段にも滑り止めシートが貼られていた。
階段を上りきると、ドアが1つ。
本当に、この部屋専用の階段らしい。
ドアは半分ガラス造りになっているけれど、少しひび割れたようなデザインの厚めのガラスがはめられているようで、中の状況を窺い知ることは出来なくなっている。
チカゲさんのお母さんは鍵を開けると、内開きのドアを大きく開け放った。
「……失礼します」
足を踏み入れると、中はそれほど狭くなく、大きな白いテーブルに椅子が6脚備え付けられている。
窓が大きいため部屋全体が明るく、また壁や家具などもクリーム色と薄いエメラルドグリーンで統一されている為、気持ちが落ち着く優しい印象。
「好きな所に座って」
私たちが並んで座ると、小さなウォーターサーバーのような機械でお茶を淹れてくれた。
「個人的な話になるけれど、彼が居て大丈夫?」
チカゲさんのお母さんは涼太を見て心配しているようだ。
「いいんです、彼には……一緒に知っておいて貰いたいので」
そう告げると、チカゲさんのお母さんは嬉しそうに微笑んだ。
「そう……本当に良かった……。
患者さんの事はね、御本人の了承なしにはお話できないから……」
患者さん……?