第69章 偽り
「ええー!? 笠松クンだけでいいよぉ!」
真っ赤な顔をしてゴネるチカゲサン。
真っ青な顔でこちらを見る笠松センパイ。
森山センパイがここにいたら、狂喜しそうな顔だ。
「スンマセン。オレもそっち方面に用があるんで……」
そう言って、幹事が会計をしているのを皆で待っている間に、オレは駅前まで出て来た。
駅前広場でキョロキョロしている長身の女の子。
「みわ! お待たせ!」
みわはオレの姿を見つけると、少し不安げにしていた表情を緩め、ふわりと微笑んだ。
「ごめんね、こっちまで来て貰っちゃって」
「ううん、大丈夫。もう準備は終わって家出たところだったし……」
みわにも状況を説明し、ついて来て貰う事にした。
これなら、解散してすぐにみわと出掛ける事が出来る。
レストランまで戻ると、もう既に会計は終わり、解散した後だった。
レストラン前のベンチにチカゲサンがぐったりと座り込み、それを笠松センパイが心配そうに見下ろしている。
「スンマセンセンパイ、お待たせしました」
「ご無沙汰しております、笠松先輩」
「お、おお、久しぶり。元気そうだな」
見るからにホッとする笠松センパイ。
さっきのみわの姿とダブる。
「んじゃ、行きましょーか。オレ達もこの後約束あるし」
「悪いな、黄瀬、神崎。
……チカゲ先輩、行きますよ」
「ん~、オッケー!」
チカゲサンがベンチから立ち上がり、フラフラと歩き出す。
ふらふら、よろよろ。
よろよろ、…………ふらふら。
少しの間見守っていたが、全く前に進んでいない。
「……相当酔っちゃってるんだね……」
みわも心配そうな顔。
まずい。
このまま酔っ払いの歩調に合わせていたら、この後のみわとの予定も全部潰れてしまう。
「ああもう!
チカゲサン、ホラ、おぶってくっスよ」
笠松センパイに彼女をおんぶするのは到底無理だ。
「ええ~……きせくんがぁ?
も、しょうがないなぁ……」
しょうがないのはアンタだっつーの。
「ごめんね、みわ」
ぼそりとみわに呟くと、彼女は少し眉を下げた笑顔で首を振った。
「仕方ないよ」
その声にいつもの元気はなかった。